「日本で商標登録していれば、海外でもある程度守られるのではないか」と考える方は少なくありません。しかし、制度上はそう単純ではありません。日本の商標権は、日本国内にしか効力を持ちません。
もっとも、だからといって直ちに大きな問題になるとは限らず、実務では状況に応じた判断が行われています。本記事では、海外効力の基本と、実際に起きた事例、そして国内でできる備えについて整理します。
商標権は「国ごと」に分かれている
商標権は、いわゆる属地主義に基づいています。これは、権利は国ごとに独立しており、日本の登録は日本国内でのみ効力を持つという考え方です。
そのため、日本で登録していても、海外で同じ名称やロゴを使う第三者に対して、日本の商標権をそのまま主張することはできません。
ただし、ここで重要なのは、「海外では必ず問題になる」というわけでもない、という点です。実際には、進出の有無やブランドの知名度、対象国などによってリスクの程度は変わります。
実際に問題になった事例
無印良品の中国での商標問題
無印良品を展開する良品計画は、中国において商標問題を経験しています。
同社の公表によれば、中国では第三者が先に「無印良品」を第24類(タオルなど)で登録しており、その範囲では権利関係が問題となりました。その結果、一部の商品について表示の使用が争われる状況が生じています。
ここで重要なのは、「ブランド全体が使えなくなった」という話ではなく、商品区分ごとに影響が出るという点です。海外では、どの範囲で権利が取られているかが実務上の分かれ目になります。
Apple の iPad 商標問題(中国)
Appleも、中国で商標問題を経験しています。「iPad」の名称について、中国企業が権利を持っていたことから紛争となり、最終的には約6000万ドルで和解しています。報道では、この支払いにより中国での iPad 商標をめぐる長い紛争が終結したとされています。
この事例も、日本企業に限らず、現地の権利状況によっては調整が必要になることを示しています。日本で有名であることや、世界的に知られていることだけで、その国の登録制度を飛び越えられるわけではありません。
海外で問題が起きる理由
海外で商標問題が起きる背景には、いくつかの要素があります。
まず、各国で制度が独立しているため、日本の登録がそのまま通用しません。さらに、中国などでは、先に出願した者が有利になる運用が強いため、第三者による先取り登録が問題になることがあります。
もっとも、これもすべてのケースで問題になるわけではなく、実際には「どの国で」「どの程度ビジネスをするか」によって、対応の必要性は変わってきます。
国内でできる備えと考え方
海外展開を前提としない、あるいはまだ検討段階の場合でも、日本国内でできる準備には意味があります。
まず、日本での商標登録を適切に行っておくこと自体は重要です。国内での権利関係が整理されていないと、後の展開に影響する可能性があります。
また、海外との関係では、例えば以下のような視点が実務では意識されます。
- どの国で使用する可能性があるか
- 将来的に越境ECなどで販売が広がる可能性があるか
- ブランド名が一般的すぎないか
これらを踏まえ、すぐに海外出願を行うかどうかは別として、リスクの有無を把握しておくことが現実的な対応になります。
まとめ
商標権は国ごとに独立しており、日本の商標権は海外にはそのまま及びません。 ただし、実務上はすべてのケースで問題が顕在化するわけではなく、事業内容や展開範囲によってリスクは変わります。
無印良品やAppleの事例から分かるのは、「海外では別の権利として扱われる」という点です。一方で、対応の程度は一律ではなく、段階的に考えることも可能です。
海外展開を予定している場合でも、
「今すぐ海外出願が必要か」
「どの国を優先すべきか」
といった判断は簡単ではありません。
当事務所では、日本国内での商標登録や調査を前提として、将来的な海外展開を見据えたリスク整理のご相談にも対応しています。現時点で海外出願を行うかどうかに関わらず、整理しておくことで判断がしやすくなります。
