「名前が広く知られるのは、良いことじゃないの?」
多くの方はそう思うかもしれません。
しかし商標の世界では、有名になりすぎた結果、権利を失ってしまうという逆説的な現象があります。
それが「普通名称化(ふつうめいしょうか)」です。
ブランド戦略やネーミングを誤ったことで、
せっかく取得した商標権を失うリスクは決して過去の話ではありません。
この記事では、「普通名称化」とは何か、なぜ起きるのか、
そしてどうすれば防げるのかを、できるだけわかりやすく解説します。
普通名称化とは?簡単に言うと何が問題なのか
普通名称化とは、もともとは特定の会社の商品名・サービス名だった言葉が、
一般的な名称(カテゴリ名)として使われるようになることを指します。
商標は本来、
- 「どこの会社の商品か」を見分けるための目印
ですが、普通名称化が進むと、
- 「商品そのものの名前」
- 「誰のものでもない言葉」
として認識されてしまいます。
その結果、
商標としての「識別力」が失われ、権利を維持できなくなる可能性が生じます。
なぜ普通名称化が起きてしまうのか
普通名称化が起きる背景には、いくつか共通点があります。
- 商品・サービスが爆発的に普及した
- 代替となる一般名称が浸透していない
- メディアや消費者が商品名を一般名詞のように使う
- 権利者自身が使い分けを意識していない
特に問題なのは、
権利者自身が商標であることを意識せずに使ってしまうケースです。
たとえば、
- 商品名を動詞のように使う
- 「〇〇=この種類の商品すべて」という使い方を放置する
こうした状況が続くと、
「もはや特定の会社の商品とは言えない」と判断されかねません。
普通名称化すると何が起きるのか
普通名称化が認められると、次のようなリスクが生じます。
- 商標登録が取り消される可能性
- 他社が同じ名称を使っても止められない
- ブランドの独占性が失われる
- 長年築いた信用が希薄化する
つまり、
有名になったはずのブランドが、誰でも使える言葉になってしまうのです。
これは、広告費や時間をかけて育ててきたブランドにとって、
非常に大きなダメージになります。
普通名称化してしまった実在の例を3つご紹介します。
① エスカレーター
元の商標権者:Otis Elevator Company
何が起きた?
「エスカレーター(Escalator)」は、もともとOtis社が開発した昇降機の商品名でした。
しかし、
- 新しい移動設備として急速に普及
- 一般名称(代替語)が存在しなかった
- 辞書やメディアが一般名詞として使用
といった事情から、「動く階段」そのものを指す言葉として定着してしまいました。
結果
裁判により商標ではなく普通名称であると判断され、商標権を失いました。
現在では、どのメーカーのものでも「エスカレーター」と呼ばれています。
② アスピリン
元の商標権者:Bayer
何が起きた?
「アスピリン(Aspirin)」は、Bayer社が開発した鎮痛薬の商品名です。
ところが、
- 世界的に広く普及
- 医療現場・一般消費者の双方で一般名として使用
- 特にアメリカでは商品名と成分名の区別が曖昧に
なった結果、国によって判断が分かれました。
結果
- アメリカ:普通名称 → 商標権喪失
- 一部の国:商標として維持
→普通名称化は「国ごとに起こり得る」という点を示す重要な事例です。
③ サーモス(Thermos)
元の商標権者:Thermos GmbH
何が起きた?
「サーモス」は、もともと真空断熱容器(魔法瓶)の商品名でした。
しかし、
- 家庭用品として広く普及
- 「魔法瓶」よりも「サーモス」という呼び方が一般化
- メディア・一般会話で商品カテゴリ名として使用
された結果、特に英語圏では
「thermos=保温ボトル一般」という意味で使われるようになりました。
結果
- 一部の国・地域では普通名称と判断
- 商標権が制限・喪失した地域も存在
→「アスピリン」と同様、国・地域ごとに結論が分かれる典型例です。
普通名称化を防ぐためにできること
普通名称化は、完全に避けられない場合もありますが、
事前の対策によってリスクを下げることは可能です。
代表的な対策としては、
- 商標であることを明確にした使い方をする
- 一般名称(商品カテゴリ名)と併記する
- Webサイトや広告で表記ルールを統一する
- 不適切な使われ方を放置しない
特に重要なのは、
「その名前はブランド名である」という意識を、社内外で共有することです。
商標は、取得して終わりではなく、
正しく使い続けてこそ守られる権利だと言えます。
まとめ
普通名称化は、
ブランドが成功しているからこそ起きるリスクです。
「有名になる=安全」ではなく、
「有名になった後こそ、守り方が重要」
という点は、ブランド運営において特に意識すべきポイントでしょう。
商標は、取得した後の「使い方」や「管理の仕方」によって、
守れるかどうかが大きく変わります。
当事務所では、事業の規模や将来展開を踏まえ、
商標を長く守るための実務的なアドバイスを行っています。
気になる点がありましたら、一度専門家にご相談ください。
