特許を出願する際、多くの研究者や経営者が「発明者」と「出願人」の違いを誤解しています。
「会社が出願人だから自分は発明者に入らなくてもいい」
「上司だから当然発明者に入るべきだ」
こうした誤解は、自分の名前が外される、報奨金を受け取れない、特許自体が無効になるといった深刻なトラブルに直結します。
実際に裁判で争われた事例をみると、その重要性がよくわかります。
発明者と出願人の基本的な違い
発明者とは
- 実際に技術的思想を考え、具体的に形にした人
- 自然人(人間)に限られる
- 発明者欄に記載され、特許公報にも名前が公開される
出願人とは
- 特許を出願し、最終的に権利を持つ人や法人
- 多くの場合は会社や大学など法人
- 出願人と発明者は必ずしも一致しない
👉 発明者=考えた人、出願人=権利を持つ人。この区別がスタート地点です。
裁判例1:上司は発明者になれるのか
東京地裁 平成16年(ワ)14321号(判決:平成17年9月13日)
事件の概要
製薬会社の研究室で、錠剤技術をめぐり上司が「自分も発明者だ」と主張。部下が中心となって技術を完成させたため争いとなりました。
裁判所の判断
- 発明者とは「技術的思想の創作に現実に加わった人」である(特許法2条1項)。
- 上司はテーマを与えただけで具体的創作に関与していない。
- よって、上司は発明者ではないと結論づけられました。
発明者・出願人から学べること
- 上司や管理者という立場だけでは発明者になれない。
- 実際にアイデアを形にした人が発明者。
- 発明者欄に名前を残すには、自分の貢献を記録で証明する必要がある。
裁判例2:共同研究における発明者認定
知財高裁 平成25年(ネ)10100号(判決:平成27年3月25日)
事件の概要
東京都立産業技術研究センターと東京工業大学の共同研究で、発明者と権利帰属をめぐって争いになりました。
裁判所の判断
- 発明を形にする過程に実質的に関与していれば発明者となる。
- 都産技研の研究者も発明者の一部として認められる。
- その結果、都産技研が特許を受ける権利の共有持分を有すると判示しました。
発明者・出願人から学べること
- 共同研究では「自分はどこまで発明に関与したか」を証拠で残すことが重要。
- 発明者から外されると、自分や所属機関の権利が失われる。
- 出願人(会社・研究機関)にとっても、正確に発明者を把握しなければ権利が揺らぐ。
発明者から外されるとどうなる?
- 名前が載らないと発明者報奨金がもらえない可能性。
- 特許公報に名前が載らず、研究業績やキャリアに影響。
- 自分の貢献が無視され、会社や共同研究先が特許を独占することも。
👉 発明に携わったら、必ずノート・議事録・メールで自分の関与を残しておきましょう。
出願人にとってのリスク
- 発明者を誤記すると、特許が無効になるリスクがある。
- 海外では発明者を意図的に外すと「不正」とされることも。
- 誤記訂正が可能な場合もあるが、訴訟になればコスト・信用を失う。
👉 出願人も「正しい発明者リスト」を作ることが、自分の権利を守る一番の手段です。
発明者・出願人が取るべき行動チェックリスト
- 発明届を提出:関与者を明確に残す
- 研究ノートを保存:日付つきで実験・着想を記録
- 契約でルール化:共同研究では発明者認定方法を事前に決める
- 専門家に相談:疑問点は社内弁理士に確認
まとめ:自分の名前と権利を守るために
発明者と出願人は似て非なる存在です。
- 発明者は「実際に発明した人」
- 出願人は「特許を持つ人(多くは法人)」
東京地裁の事件(平成16年(ワ)14321号)では「上司だから」という理由で発明者にはなれないことが示されました。
知財高裁の事件(平成25年(ネ)10100号)では、共同研究において実質的に関与した研究者が発明者として認められました。
出願人・発明者ともに、正しい理解と記録の積み重ねで、自分の権利と名前を守ることができます。
