ブランドロゴなどでよく見かける、おしゃれにデザインされたアルファベットの組み合わせ——それが「モノグラム商標」です。
一見ただの図形のようでも、実は読み方(称呼)が存在する場合もあり、商標審査ではその“読み”が登録可否に大きな影響を及ぼします。では、どんなモノグラムが「読める」とされ、どんなものが「読めない」と判断されるのでしょうか?
本記事では、実際の裁判例や審決をもとに、モノグラム商標の読み方に関する考え方を解説します。これから商標出願を検討している方や、ネーミング戦略に悩むブランド担当者の方にとって、役立つ情報だと思います。
モノグラム商標の定義と背景
モノグラムとは、複数の文字を組み合わせて図案化したものを指します。たとえば「L」と「V」を組み合わせたルイ・ヴィトンのロゴマークは非常に有名で、日本でも登録商標第1419883号等で登録されています。(以下の画像は特許情報プラットフォームより引用)

このようなモノグラムは、単なる文字列とは異なり、文字と図形の中間的な存在です。そのデザイン性の高さから、ファッションブランドや高級雑貨に多く採用されていますが、商標法の観点から見ると、モノグラムには「読めるか読めないか」という重要な判断軸が存在します。
この「読めるかどうか」は、商標審査の場面で「称呼(読み方)」が生じるかどうかという問題に直結し、審査や異議申立、裁判にまで影響する可能性があります。
商標審査における「読み方(称呼)」の意義
商標の類否を判断する際、基本となるのが「三点観察」と呼ばれる視点です。これは以下の3つの観点から商標を比較・判断する方法です:
- 外観:見た目が似ているか
- 称呼:読み方が似ているか
- 観念:意味やイメージが似ているか
中でも「称呼」は、商標がどのように呼ばれるかという点で重要です。例えば、商標が文字や明確な図形で構成されている場合でも「これは“イヌ”と読める」などと判断されます。
しかし、図案が抽象的であったり、曖昧であったりする場合、称呼が生じない=読めない商標と判断されることもあります。
事例1:「VLモノグラム」に見る称呼の認定
「VLモノグラム」に関する過去の裁判(平成3年(行ケ)91号)では、以下のような判断が下されました。
「複数のローマ字をモノグラム化した構成からは特定の観念を生じることはないとしても、モノグラムとは文字の組み合わせであるから、文字に称呼がある以上、当該商標が複数のローマ字をモノグラム化した構成からなることが一見して明らかな場合にまで、一切称呼が生じないと解することは相当でない。」
この裁判では、「VL」と読めることが視認可能であるとして、以下の複数の読み方(称呼)が認められました:
- ヴィーエル
- ヴイエル
- ブイエル
- エルヴィー
- エルヴイ
- エルブイ
つまり、読める文字で構成されている限り、その商標には称呼が生じるという解釈です。
事例2:「S3inモノグラム」はなぜ称呼が否定されたか
一方で、登録商標第5159867号(権利は存続期間満了により消滅)に関して争われた審判(不服2007-30332号)では、異なる判断がされています。(以下の画像は特許情報プラットフォームより引用)

この商標は、「S」の右上に小さく「3」の数字が表されたデザインでしたが、審決では以下のように述べられています:
「乗法における“3乗”と呼ばれる記号であり、その存在が意味するところは小さくない。従って、数字部分を無視して観察すべき格別の理由も見当たらず、構成全体として特定の称呼・観念は生じない。」
このケースでは、文字が認識できるにもかかわらず、構成全体として称呼が生じないと判断されました。
つまり、読める文字が含まれていても、その配置や強調度合いによっては、「読み」が成立しないと判断されるのです。
実務に活かすモノグラム商標の考え方とまとめ
以上の事例からわかる通り、モノグラム商標は「読めるか読めないか」=称呼が生じるかどうかが類否判断に大きく影響します。
ここで重要なのは、意図的に称呼を生じさせない設計も可能だという点です。
例えば、
- 小さく重ねる
- 数字や図形を混在させて曖昧にする
- デザイン的に識別しづらくする
といった工夫によって、他人の類似商標とのバッティングを回避し、出願拒絶を防ぐことができる可能性があります。
また逆に、あえて称呼を生じさせることでブランド認知を促すという戦略も取れます。実務では、目的に応じたモノグラム設計が必要です。
まとめ
モノグラム商標は、文字と図形の中間に位置する特殊な商標形態であり、見た目が印象的である一方、「読み方(称呼)」が生じるかどうかという点が商標審査や裁判に大きな影響を与えます。
- 読める構成なら称呼は生じる(例:VLモノグラム)
- 構成が複雑・曖昧なら称呼が否定されることもある(例:S3inモノグラム)
- 意図的なデザインで、称呼の有無をコントロールする戦略が有効
商標出願時には、これらの観点を踏まえてモノグラムの構成やデザインを考えることが、スムーズな登録とブランド保護の鍵となります。
モノグラム商標の設計や読み方の判断は、場合によって専門的な解釈が必要になります。商標の出願やネーミング戦略でお悩みの方は、弁理士に相談することで、リスクを避けながら最適な対応が可能になります。
かいせい事務所では、モノグラムを含む図形商標の審査対応やブランド保護に関するご相談を随時承っております。
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