【一発特許査定とは?】幸運か不幸か──弁理士が解説する真実

特許の世界において、「一発特許査定」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
これは、特許出願後に拒絶理由の通知を一度も受けることなく、審査官からいきなり「特許査定」が下されるケースを指します。

「ラッキー!」「スムーズに通って良かった」と思う反面、実はこの一発特許査定、必ずしも“幸運”とは言い切れない側面もあります。本記事では、一発特許査定が本当に良いことなのか、あるいは落とし穴があるのか、弁理士の視点から詳しく解説します。

一発特許査定とは何か?その定義と背景

一発特許査定とは、出願後に審査請求を行い、審査官による審査が行われた結果、拒絶理由が一度も通知されず、最初のアクションが「特許査定」であるというケースを指します。

通常、特許出願の多くは何らかの理由で拒絶理由通知書が届き、それに対して補正や反論を行う必要があります。しかし中には、拒絶理由が見つからず、いきなり特許が認められる出願も存在します。

このような一発特許査定を受けた場合、「良いことづくし」のようにも見えますが、本当にそうでしょうか?


一発特許査定の“落とし穴”とは?心配される声

一発特許査定には次のような懸念が挙げられています:

  • 権利範囲を狭く書きすぎたのではないか
  • もっと広い範囲で出願できたはず
  • 分割出願のタイミングを逃したかもしれない

このような声が挙がる背景には、出願時に「攻めた権利範囲」を設定していれば、拒絶理由が通知される可能性が高く、それに対して反論や補正を行うことで、より戦略的な特許が取得できるという考え方があります。

ですが、実際には現在の特許法では、特許査定の謄本送達日から30日以内であれば分割出願が可能です。したがって、「一発査定=機会の喪失」と一概には言えません。


データで見る!一発特許査定が増えている背景

少し古いデータですが、特許庁が発表している特許行政年次報告書2017年版によれば、次のような傾向が見て取れます。

  • 2007年:ファーストアクション件数 約30万件 → 特許査定 約14万件
  • 2016年:ファーストアクション件数 約24万件 → 特許査定 約19万件

このデータから、一発特許査定の割合は年々増加していると考えられます。

背景には、出願人が事前に関連技術分野の調査を十分に行い、拒絶されにくい“ギリギリを攻めた権利範囲”で出願している傾向があると推測されます。つまり、事業戦略と知財戦略が緻密に連動しているということです。


一発特許査定は実は幸運?メリットと戦略的意義

一発特許査定の最大のメリットは以下の通りです:

  • 補正が不要なため、当初の狙った権利範囲をそのまま取得できる
  • 時間的にも費用的にも最小限で済む
  • 拒絶理由通知書への応答が不要なのでストレスが少ない

特許出願には通常、拒絶理由通知への対応として補正書や意見書の提出が求められ、これには弁理士費用も発生します。つまり、一発で通ることで、コスト削減にもつながるのです。

また、「一発査定になったから狭い権利範囲しか取れなかった」と考えるよりも、「狙った範囲で、無駄なく、最短で特許が取れた」と捉えることで、心理的にもポジティブに受け止められるのではないでしょうか。


拒絶理由通知が来たとしても“チャンス”はある

一方で、一発特許査定でなかった場合も、それは決して「不幸」なことではありません。

拒絶理由通知が来れば、以下のような対応が可能です:

  • 補正して範囲を絞る
  • 意見書で反論して広い範囲を維持する
  • 分割出願で新たな権利取得を目指す

ただし注意点として、最後の拒絶理由通知が来るかどうかは審査官の判断に委ねられているため、出願人側ではコントロールできない部分もあります。

それでも、知財戦略の柔軟性を持っていれば、拒絶査定に至る前に十分な対応が可能です。


まとめ:一発特許査定をどう捉えるかは戦略次第

結論として、一発特許査定は事業戦略と知財戦略がしっかり噛み合っていれば、幸運な結果だと言えるでしょう。

  • 狙った権利範囲で取得できる
  • 時間・費用の削減になる
  • ストレスが少ない

一方、拒絶理由通知を受けた場合も、それは「別のチャンス」です。重要なのは、自社の事業に合致した権利範囲を最終的に取得できるかどうかであり、その手段が一発であろうと補正後であろうと、結果が全てとも言えるでしょう。

弁理士としては、反論のしどころがなくて少し寂しい気持ちもありますが(笑)、それでも依頼者の狙い通りの特許が取得できたなら、それが最も良い結果なのです。


特許は事業戦略と密接に関わる重要な資産です。
だからこそ、経験豊富な弁理士に早めに相談することで、無駄なコストや時間を抑え、最適な権利化への道が開けます。

特許出願前の相談
拒絶理由通知への対応
分割出願の判断
権利範囲の見直し

など、状況に応じて柔軟にサポートいたします。
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